地球の怒り

広島大学附属小学校五年 栗田 優輝

湯船いっぱいに水をため
シャワーの蛇口 丸い電灯を
ボワーッと水面に映す
ゆずの香りが鼻をくすぐる
サラリとかけ流した体で
ドボン ドボンと入ってく
「フーッ」
ぼく一人分の波紋が広がる
ステンレスの底におしりをすべらせ
プププププーッと
水中に体の重さを沈める
この瞬間 ぼくは
今日の緊張から解き放され
疲れた体から救われる
心臓の鼓動が警報をならすまで
体の全てを静止する

水深メモリいっぱいに水をため
校舎の窓 ポプラの葉先を
ピーンと張りつめた水面に映す
ツーンと消毒薬が鼻をさす
チョッと湿らせた体を
笛を合図に一斉に
皆が
ジャパン ジャパン
と飛びこんでいく
「キャー キャー」
三十八人分の水しぶきが散る
コンクリートの底を蹴り上げて
スーッと
水面に体の重さを移してく
この瞬間 ぼくは
授業の緊張から解放され
教室 運動場の暑さから救われる
ビート板の船首を 一列に
威勢のいい人力エンジンが
ゴールめざして始動する

水平線いっぱいに水をため
宇宙の空 地球の雲を
ギラギラ光る水面に映す
磯の香りを鼻いっぱいに吸う
タラーッと汗を走らせた体で
砂浜でこがした足裏を
ザブン ザブンと突っこんでいく
「それえ それえ」
ぼくと弟の掛け合いが飛びかう
砂浜の底から足を離し
フワッと
海面の波間に体の重さを揺らしてく
この瞬間 ぼくは
人間の緊張から解き放され
波となって海水の中にもどってく

ぼくの体を何度も救ってくれる水
温暖化のいかりを沈め
どうか 地球の心を救ってほしい

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