「中国地方は梅雨明けしました」
広島市 伊藤 育子
ふと気づくと部屋の中にまで
焼けたアスファルトの匂いがしていた
ネクタイをきっちりと締めたアナウンサーが
TVの中から淡々と告げている
そんなこと聞かなくてもわかる
真夏が来たのだ
どこからかかすかに聞こえる
車のエンジン音さえ熱をはらむ
この暑さは嫌いだ
私からすべての水分を奪っていく
身体からも心からも
涙もうるおいもみずみずしい感情も
やがて降るという夕立ちを待って
水切れしている庭木から目をそらす
本当に見たくないものは
きっとそれではないのだけれど
化石のように干からびた感情を
見たいのか見たくないのか
わからないまま目をそらす
消しきれずに残った記憶を
取っておきたいのか捨ててしまいたいのか
わからないまま握りしめる
無造作に失いたくはないのだ こんなものでも
ならばいっそ食んでしまおう
ゆるりと効く毒のように
ゆっくりと身体の中をめぐって
この血や肉にかわるまで
一杯のジャスミン茶を飲んで
水分を補給する
雨は 降らない
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