喰らう
広島市 八木 真央
鬼は知らない
たましいを喰わなくとも腹が膨るることを
鬼は 何のためらいも無く たましいを噛み
砕く
激しい痛みに耐えかねるたましいの声を近く
に
子鬼は耳を塞いで床につく
朝を迎えて 子鬼は恐る恐る自分の口に手を
やる
−−花子ちゃんと同じ口だ
里の子と同じ口元であることに安堵し 里に
下りるが 誰もいない
つまらなくて お腹も空いて 小石を蹴りな
がらまた山に登り
里の見下ろせる木に登って うす紅色の実を
ひとつ かじった
日も暮れて 鬼がたましいをむさぼり始めた
のが聞こえる
母さんのところへ行こう と子鬼は思い
日毎に小さくなっていく母のために うす紅
色の実をもぎに行く
木のふもとで うずくまっている女が見える
女は小さく唸りながら 薄闇の中
うずくまったり 枝に指を絡めたりを繰り返
している
乳房から うす紅色のたましいを絞り出し
丸めて木にくくり付けている女の影が
ひと回り小さくなった母だと気付いた時
子鬼は 自分の胃がむさぼるものを知り 泣
いた
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