影踏み
広島市 八木 真央
影踏み は 子供の遊び
相手の影を踏み合っては
ケラケラ笑い合って
物心ついた頃から
影踏み は 私の遊び
あの男の影を踏んでは
コノヤロウ コノヤロウと足首捻って
コノヤロウ が アノヤロウになって
しかし アノヤロウこそが
私の影を形作っていた事を
身に沁みて気付かされた 今
あの男には影が無い
明日も踏めるだろうか と
どんどん薄くなっていくあの男の影を
夢中になってかき集めていた最中
横たわるあの男の傍らに椅子を置いて
私が踏むのは
あの男のこれまでの光の部分
濃くて 大きくて
いくら踏んでも気の済まなかった
あの男の 本当は淋しい小さな影が
白む日が来るなどとは思いも寄らず
胸の中の深い場所で
散々捻ってきた この足首が疼き
痛みで耐えきれなくなりそうな時ほど
あの男は横たわりながらも
益々 尊く 優しく発光し
蛍の様に点々と
心細い残光を私に植え付けたまま
あの男は
影踏み は 私の遊び
私の足元から濃く伸びる
顔立ちの事以上に鮮明で
淋しくいびつな影に
影の無いあの男の面影を見ては
アノヤロウ アイタイヨウ と
私は 私の影を踏む
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